原宿駅にほど近い、本田技術研究所 アドバンスデザインスタジオ。
そのショールームに展示されていた驚くべきデザインのバイク?いや、車?
車体に鉄板が付いている?その上で焼きそばを焼いている?
見たことのないそのフォルムに目を奪われ、直接取材をお願いしました。
「世界のHONDA」社員がそのアイデア・技術を結集して作成した試作車。
その名も「Let's Show Buy」
今回は製作に携わったデザインチームの浅井さんと塚越さんにお話を伺うことができました。
きっかけは社内の新商品コンテスト
インタビュアー(以下「イ」):
非常に興味深い見た目の車体だと思うのですが、これは販売しているものなのでしょうか?
ホンダ開発担当者(以下「ホ」):
残念ながら販売はしていません。あくまでも試作車両という扱いです。
イ:製作された経緯を教えていただけますか。
ホ:もともとホンダの社内で新商品コンテストみたいなものがありまして、部署の垣根を越えたチームが決まったレギュレーションの中で商品を開発するんです。
1チーム20名くらいなんですが、、我々のチームにはASIMOの開発チームのメンバーや、車両を作る板金のプロのような方もいて、社内ではあるけど異色なメンバーで一つの作品を作ります。これはその時の作品なんです。
イ:どのようなコンセプトで製作されたんですか?
ホ:まずコンテストにはテーマがありまして、この時は「夢を表現するもの」「顧客目線で考えたもの」「技術でチャレンジ」。この3つを柱に「新価値を創造してください」というものでした。
さらにレギュレーションとして中国製のATV(全地形対応車・いわゆる4輪バギー)と、カブの50CCエンジンを支給されました。
イ:使用する土台は決まっているんですね。
ホ:コンセプトとしては、私がタイに駐在していたこともあって、アジアのための新商品はどうかというところからスタートしました。
アジアは世界の中でもホンダの製品が非常に多く利用されていて、経済発展も著しい地域なんですが、実は2輪車はものすごい台数が流通しているんですけど、4輪の車はまだまだ高価で購入できる人たちが少ないのが実情なんです。
2輪と4輪を購入するお客様の間には収入の壁がある。ならば2輪と4輪の間をつなぐモビリティを作れないか。そのモビリティを使って商売をして、いずれ4輪を買う。アジアの人々のために、商売を通してお金を稼いで、人生を一緒に上がっていける新しい乗り物をということで。
だから名前も「Let's Show Buy(商売)」。
屋台の文化をイメージしました
イ:車体の形が大きく変わるところも面白いですね。
ホ:移動時にはコンパクトに閉じていて、商売をする瞬間に変形します。
また畳1畳くらいのスペースで商売ができるサイズがいいんじゃないか。デザインとしてはモダンでレトロ。誰からも愛されるような可愛いデザインにしようということで、こんな形になりました。
あとは、ATV自体がもともとオフロードで遊んだりするものなので、実際に荷物を載せた時の安定性がどうかという問題がありました。そこには遠心力を使って重心を安定させる技術を利用して補っています。これはASIMOで使われている転ばない技術なんですよ。
イ:開発者としては、どんなシーンでの利用を想定していたんでしょうか?
ホ:アジアでは屋台が当たり前のように出店していて、ランチはみんな屋台で買って食べるという文化なんですね。やはりまずはそこをイメージしました。日本のワゴン屋台などもリサーチしましたね。
商品を固定して販売することで、清涼飲料水やインスタント食品、ファストファッションなど、いろんな企業様とコラボレーションすることもできると考えていました。
イ:車に鉄板焼きが付いているのは、大きなインパクトがあります。
ホ:そうですね。カセットコンロを鉄板の下に設置しているのですが、理想は全てをエンジンの動力で賄いたかったんです。でもちょっと時間が足りなくて。
下部には冷蔵庫も付いているんですよ。
イ:冷蔵庫まで?!
ホ:専用の小さなバッテリーを積んで動かしています。
コンテストの当日には、実際に「Let's Show Buy」で焼きそばを焼いて会場の人たちに食べてもらったんです。それはかなり盛り上がりました。
小型ながらしっかりとした冷蔵庫。調味料などを入れることを想定していたとのこと
タブレットレジとモバイルプリンターで広がる用途
イ:今日はiPadやiPhoneで使えるPOSレジアプリとモバイルプリンターを用意してきたのですが、これを使うと売り上げをデータ化できますし、レシートも発行できて「Let's Show Buy」の用途がぐっと広がるなと感じました。
ホ:これこそアジアにピッタリですね!アジアではWi-Fiルーターなどの通信機器がとても安く手に入るのでみんな持っています。屋外でのインターネット環境は決して珍しくない。
イ:だとしたら、アジアで一気に普及していく可能性がありますね
イ:個人的には「Let's Show Buy」が商品化されたら絶対に売れると思っているんですが、もし販売するとしたら値段はおいくらくらいになるんでしょうか?
ホ:詳しい値段は決められないですが、基本的には安価で提供できると思います。ベースにしたATVは10万円程度ですし、そこからの改造費も20万円くらいに抑えることができたので。
イ:ぜひ商品化して欲しいです。ちなみにコンテストから商品化につながるものもあるんですか?
ホ:作ったものがそのまま商品化につながるというのは難しいですけど、そこから出たアイデアを活かしたものはあります。
ずっと温めていればいつかという感じなので、「Let's Show Buy」の持つ価値は大事にしていきたいですね。草の根活動は続けるつもりです。
イ:根気が必要ということですね。
ホ:コンテストは年に2回くらいあって、その時に感じていることや考えを何でも募集してくれる会社なのは恵まれてますね。
「Let's Show Buy」も本来の業務の間を縫って作ったり、そういった取り組みを許してくれるのでありがたいです。
イ:今後もチャレンジは続いていくわけですね
ホ:そうですね。
イ:素晴らしいお話をありがとうございました。
左からデザインチームの浅井啓輔さんと塚越俊典さん
1台の試作車の発見から始まった今回の取材でしたが、お話しを伺うごとにホンダの技術の根底を見せていただいた気がしました。
自由な発想とチャレンジ精神。
この二つが、ホンダ揺るぎない技術を支えている原動力なのではないでしょうか。
何より「Let's Show Buy」の制作過程を話すお二人の楽しそうな表情が印象的でした。

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